「防災グッズ いらない」で検索すると、耳栓やアイマスク、手回しラジオ、保存水の大量備蓄まで、いろいろな品目が「実は不要」だと紹介されています。ただ、その「いらない」の根拠を一つずつ確認していくと、実際に裏付けが取れるものはそれほど多くありませんでした。
この記事では、防災グッズの利用経験者を対象にした民間調査と、公的機関の資料を1つずつ確認し、「いらない」という通説が一次情報でどこまで裏付けられるかを検証しました。結論から言うと、ほとんどの品目は「いらない」側ではなく「いる」側でした。ただし、優先順位は品目によってはっきり分かれます。
一人暮らし女性の防災グッズの全体像については、別記事「防災グッズ、一人暮らし女性の最低限は?」でカテゴリごとに整理しています。今回はその中でも「いらないと言われがちな品目」だけを掘り下げます。
本記事は実機レビューではありません。編集部が紹介する品目をすべて購入・使用して判定した記事ではなく、防災グッズの利用経験者651人を対象にした民間のネット調査と、総務省・内閣府などの公的資料を確認し、その内容にもとづいて構成しています。作成方法は末尾の「この記事の作り方」で説明します。
なぜ「いらない」という記事が多いのか
「防災グッズ いらない」を調べると、メーカーが運営するブログが上位に出てくることがあります。こうした記事の中には、自社で扱っていない商品(手回しラジオなど)を「いらない」側に置き、自社のポータブル電源のような商品を「あると安心」側に置く構成のものが見られます。
商品を売る立場の記事だからといって、内容がすべて誤りというわけではありません。ただし、判定の根拠が公表されていない記事も少なくないため、読む側としては「誰が」「何を根拠に」いらないと言っているのかを確認したほうが安全です。
この記事では、特定の企業や商品を批判する目的ではなく、判定の根拠をすべて一次情報に置くことで、その確認作業を代わりに行っています。
検証に使った一次情報と、その限界
品目ごとの検証には、主に次の資料を使いました。
- infoQ(GMOリサーチ&AI株式会社)「防災グッズ本当に役立ったものランキング」(調査期間2026年1月29日、対象は全国15〜99歳の男女で防災グッズの利用経験がある651人、有効回答N=651)
- 総務省 関東総合通信局「災害時に活用できる情報伝達手段」
- 日本水道協会「熊本地震における日本水道協会の対応について」
- 内閣官房水循環政策本部事務局「令和6年能登半島地震と水源確保への取組」(令和6年7月5日、令和6年度第2回地下水マネジメント研究会 資料。掲載データは国土交通省HP「令和6年能登半島地震における被害と対応(令和6年5月)」より作成)
- 内閣府男女共同参画局「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」
- 内閣府「防災に関する世論調査」(令和7年8月調査、全国18歳以上、有効回収数1,707人)
- 日本トイレ研究所「災害用トイレに関する市民意識及び備蓄状況調査」
- 中部電力ミライズ「カテエネ 手回し充電の実測記事」(民間の検証記事)
このうち、品目ごとの「使わなかった」「役立った」という具体的な割合を出しているのはinfoQの調査だけでした。この調査には、正直にお伝えしておきたい限界があります。
対象者651人は、infoQの調査概要では「全国15〜99歳男女」「防災グッズ利用経験者」とだけ定義されています。記事の見出しでは「被災経験者651人」とも書かれていますが、調査概要のほうには被災経験や避難経験をスクリーニング条件にしたという記載がなく、原典の中でも表現が一致していません。地震か水害か、どの災害を経験したかも区別されていません。運営はGMOリサーチ&AI株式会社という民間のネット調査会社で、政府による統計調査ではありません。「被災者全体の総意」として扱える数字ではなく、防災グッズを使ったことがある651人分のアンケート結果として読む必要があります。
この点を踏まえたうえで、次の一覧表では品目ごとの判定をまとめています。
「いらない」と言われる品目、一次情報での判定一覧
| 品目 | よく言われること | 一次情報での判定 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| 耳栓・アイマスク | 防災セットの定番だが使わない | 「用意したが使わなかった」上位(10.4%)。裏付けあり | 低 |
| ホイッスル(救助笛) | 結局吹く場面がない | 単体の救助笛としては裏付けあり(8.9%)。ただし防犯用途は別 | 低〜中 |
| 多機能手回しラジオ | スマホ充電の足しにならない | 充電目的なら裏付けあり。情報収集目的は否定材料なし | 中 |
| 保存水の大量備蓄 | 置き場所に困るだけで無駄 | 裏付けなし。むしろ「役立った」側の上位 | 高 |
| カセットコンロ | ガスが止まれば使えない | 裏付けなし。「役立った」3位 | 高 |
| 携帯トイレ・簡易トイレ | 備蓄しすぎ、そこまで要らない | 裏付けなし。断水の長期化実績から優先度が高い | 高 |
| 高額な防災セット | 中身が重複するだけ無駄 | セット自体を評価した一次情報はなし。重複対策をすれば有効 | 中 |
| 防災頭巾・ヘルメット | どちらか一方でいい | 優劣を判定した一次情報はなし。用途が違うため両方に意味がある | 用途次第 |

ここから、それぞれの品目を詳しく見ていきます。
1. 耳栓・アイマスク
infoQの調査では、「用意したが使わなかった」防災グッズの1位が耳栓・アイマスクで10.4%でした。避難所の環境によっては、周囲の音が聞こえなくなることで逆に不安になり、使わなかったという声が目立ったと報告されています。
睡眠の質にかかわる品目なので人によって必要性は変わりますが、「用意したが使わなかった」の1位という結果は、他の品目と比べても裏付けが強い部類に入ります。ただし1位といっても10.4%で、9割近い人はこの品目を挙げていません。「多くの人が不要と答えた」ではなく「挙げた人が最も多かった」という程度の差だと理解しておくのが正確です。持ち出し袋の容量が限られている一人暮らしでは、優先度を下げてよい品目です。
2. ホイッスル(救助笛)
同じ調査で、「用意したが使わなかった」の2位はホイッスル(救助笛)で8.9%でした。助けを呼ぶような状況にならなかった、という理由が主だったようです。
ただし、ここで注意したいのは、ホイッスルには「救助を求める道具」と「防犯ブザーの代わり」という2つの役割があることです。内閣府男女共同参画局のガイドラインの備蓄チェックシートでは、「防犯ブザー/ホイッスル」という形で1つの項目にまとめられています。単体の救助笛としては優先度を下げてよくても、防犯目的まで含めると話が変わります。この点は後の章で改めて取り上げます。
3. 多機能手回しラジオ
「用意したが使わなかった」の3位は多機能手回しラジオで5.5%でした。これだけを見ると「いらない」側に見えますが、目的を分けて考える必要があります。
民間の検証記事(中部電力ミライズ「カテエネ」)では、メーカー推奨のペースで2分間回すのを3回繰り返してもスマートフォンの充電残量は表示上まったく増えず、モーターで30分間・計4,000〜5,000回転させてようやく1%増えただけでした。手回し充電器にいったん蓄電してから充電する方法も試されましたが、こちらは起動中に電源が落ちて1%も充電できなかったと報告されています。一方でLEDライトは2分間の手回しで約2時間30分、ラジオは約22分間、連続で使えたとのことです。スマホの充電器として期待すると、確かに物足りない結果です。
では情報収集の手段としてはどうか。総務省は、非常災害時に住民へ正確・迅速に情報を届けるため、臨時災害放送局(FM放送局)を口頭による申請で速やかに開設できる免許制度を整えており、Lアラートやエリア放送と並ぶ住民への情報伝達手段の一つとして位置づけています(総務省 関東総合通信局「災害時に活用できる情報伝達手段」)。情報収集の手段としてラジオを不要と判定した一次情報は見当たりませんでした。
まとめると、「スマホ充電器として買うなら期待外れになりやすい」は実測で裏付けがあります。「情報収集の手段として不要」までは一次情報が支持していません。購入前に、自分が何を目的にラジオを備えるのかをはっきりさせておくと失敗が減ります。
4. 保存水の大量備蓄
保存水は、今回調べた中でもっとも「いらない」から遠い品目でした。「大量に備蓄しても置き場所に困るだけ」という主張の裏付けは一次情報に見当たらず、それどころかinfoQの調査では「役立った」防災グッズの2位が保存水で11.5%です。1位の現金(15.5%)に次ぐ結果でした。
内閣府「防災に関する世論調査」(令和7年8月調査、有効回収数1,707人)でも、家庭で3日分以上備蓄しているものの1位は飲料水で69.8%でした。食料品59.8%・衛生用品38.4%が続き、備蓄品目の中で飲料水は突出して高い割合になっています。
保存水の備蓄量については、首相官邸が「1人1日3リットルを目安に、3日分。大規模災害では1週間分が望ましい」としています(詳しくは柱記事の早見表をご覧ください)。一人暮らしの場合、収納スペースが限られることは確かに課題ですが、これは「量を減らしてよい」根拠にはなりません。2Lペットボトルをローリングストックで回すなど、置き場所の工夫で解決する話です。
5. カセットコンロ
「ガスが止まれば使えないから無駄」という声もありますが、カセットコンロが使うのは都市ガスではなくカセットボンベです。ガスの供給が止まっても影響を受けません。
infoQの調査では、「役立った」防災グッズの3位がカセットコンロで7.8%でした。調査記事でも、温かい食事は極限状態で身体だけでなく精神面の安定にも寄与する、と結果の解釈が添えられています。前述の内閣府調査でも、食品を温める熱源(カセットコンロなど)を3日分以上備蓄している人は27.7%でした。オール電化の住宅では、停電時に調理手段そのものがなくなるため、一人暮らしでも優先度は高い品目です。
6. 携帯トイレ・簡易トイレ
「携帯トイレはそこまで大量に備蓄しなくていい」という主張についても、裏付けになりそうな一次情報は見当たりません。むしろ断水が長引いた実績を見ると、優先度を上げるべき品目です。
熊本地震では、日本水道協会の資料によると、最大で7県34市町村445,857戸が断水しました。熊本市の326,873戸は4月30日までに解消しました。
同じ資料には自治体ごとの断水期間も載っており、御船町は4月14日から5月23日まで、西原村は4月16日から5月25日まで断水が続いています。南阿蘇村では3,503戸のうち、7月14日時点でもまだ2戸が断水したままでした。応援に入った応急復旧隊が全隊撤収したのも6月3日です。1カ月以上、蛇口から水が出ない地域が現実にあったことになります。
令和6年能登半島地震でも、内閣官房水循環政策本部事務局の資料によると、石川県・富山県など6県38事業者で最大約13.7万戸が断水しました。珠洲市では市域の約9割の水道供給を担っていた宝立浄水場が大きな被害を受け、一つの浄水場に大部分の配水池がつながっていたことなどから断水が長期化したと記録されています。
避難所や仮設住宅の予定地では、代替水源を確保する手段の一つとして井戸水の活用可能性を調べる調査まで行われました。水道が数カ月単位で止まる事態が現実に起きている以上、トイレの備えを減らす理由にはなりません。
内閣府の令和7年8月調査でも、携帯トイレ・簡易トイレを3日分以上備蓄している人は27.2%にとどまり、飲料水(69.8%)や食料品(59.8%)より低い数字でした。日本トイレ研究所の全国4,700人調査でも携帯トイレの備蓄率は20.6%(飲料水43.3%)で、実際の備えが手薄になりやすい品目だと報告されています。「いらない」どころか、備えが追いついていない側の品目です。
同研究所は、携帯トイレ・簡易トイレの備蓄について「最低3日分、可能であれば1週間分」を推奨しています。1人1日あたりの使用回数を具体的に定めた公的資料は今回確認できませんでしたが、備蓄の日数の考え方自体は、飲料水や食料と同じ「最低3日、できれば1週間」というラインに揃えておくのが無難です。
7. 高額な防災セット
「セット品は中身が重複するだけ無駄」という意見について、セットそのものの有用性を評価した一次情報は見つかりませんでした。infoQ・内閣府の資料とも、セットという商品カテゴリを対象にした調査は行っていません。
一つずつそろえる手間を考えると、セット品には一定の意味があります。ただし、すでに単品で持っている物との重複は避けられません。柱記事でも紹介している考え方ですが、セットは入り口として使い、チェックリストと照らして足りないものだけを単品で足す使い方が無駄を減らせます。「いらない」と切り捨てるより、「重複前提で選ぶ」ほうが実態に近い判定です。
8. 防災頭巾・ヘルメット
「防災頭巾とヘルメット、どちらか一方でいい」という比較サイトの整理をよく見かけますが、どちらが優れているかを一次資料で判定した情報は見つかりませんでした。
防炎性は頭巾、耐衝撃性はヘルメットが有利とされることが多いものの、これは製品特性の一般論であり、公的機関が優劣を調査した結果ではありません。火災由来の火の粉から頭を守る場面と、地震による落下物から頭を守る場面では、そもそも想定している危険が違います。どちらか一方を選ぶという発想よりも、住んでいる建物や想定するリスクに合わせて考えたほうが実情に合っています。
一人暮らし女性が優先すべきもの
ここまでの検証で「いらない」側に分類した耳栓・アイマスクやホイッスルですが、一人暮らし女性の場合は事情が変わる品目もあります。

内閣府男女共同参画局の「災害対応力を強化する女性の視点〜男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン〜」(令和2年5月公表)には、備蓄チェックシートの「女性用品」欄として、生理用ナプキン、おりものシート、サニタリーショーツ、防犯ブザー/ホイッスル、中身が見えないゴミ袋、女性用下着が明記されています。このガイドラインは本来、自治体や避難所運営者向けの資料ですが、個人が用意しておくと安心な品目として参考にできます。
令和6年能登半島地震では、女性用トイレへの生理用品の設置、性暴力・DV防止カードの設置、女性専用の休養スペースの設置、そして防犯ブザーのプッシュ型配布(4,200個)が実際に行われました。ホイッスル単体は「用意したが使わなかった」上位に入っていましたが、防犯ブザーと組み合わせて持つ場合はこの文脈で優先度が上がります。
生理用品については、避難所での配布に頼らず、個人で備蓄しておく考え方が推奨されています。日数だけで量を決められない品目なので、「3日分」ではなく、普段の周期・経血量に合わせて1周期分を目安にするほうが現実的です。
一方で、「一人暮らしは量を減らしてよい」と明示的に述べている政府の推奨は見つかりませんでした。家族4人分を前提にした大容量のセットや大人数用のカセットコンロなど、量の部分を自分の暮らしに合わせて調整するのは合理的ですが、これは推測にとどまる部分として書き添えておきます。
じゃあ何を買うのか
「いらない」を検証してきましたが、結局は大半が「いる」側でした。ここからは、この記事の結論を踏まえて何から手をつければいいかを整理します。
一人暮らし女性の防災グッズを最低限そろえるところから始めたい場合は、柱記事の早見表を参考にしてください。
infoQの調査で「役立った」4位に入っていたポータブル電源・モバイルバッテリーについては、容量や置き場所で迷いやすいため、別記事で小型モデルを比較しています。
▶ 一人暮らしのポータブル電源は容量で選ぶと失敗する? 小型5機種を比較
比較記事で扱った機種のうち、Jackery・BLUETTIは公式のアフィリエイトプログラムで購入経路を確認できています。
▶ Jackeryの公式ストアを見る
▶ BLUETTI公式ストアを見る(クーポンコード「AFF1000」で全商品1,000円OFF)
一つずつそろえるのが大変な場合は、防災士が中身を選んだセット品を土台にして、足りないものだけ単品で足していく方法もあります。
保存水・簡易トイレ・カセットコンロのような低単価の日用品は、Amazonで探すのが手軽です。

▶ Amazonで保存水を探す
▶ Amazonで簡易トイレを探す
▶ Amazonでカセットコンロを探す
まとめ
「防災グッズ いらない」という記事の多くは、根拠を示さないまま品目を切り捨てています。今回、一次情報を1つずつ確認したところ、確かに裏付けが取れたのは耳栓・アイマスクとホイッスル(単体使用時)くらいで、保存水・カセットコンロ・携帯トイレのような主要な品目は、むしろ「役立った」側に入っていました。
一人暮らしだからといって量を大きく減らしてよいという根拠も見つかりませんでした。減らしてよいのは「使わなかった」という裏付けがある一部の品目だけで、そのほかは優先順位をつけながら少しずつそろえていくのが、今回確認できた一次情報にもっとも近い判断です。
この記事の作り方
この記事は、編集部が防災グッズを実際に使用して判定した実機レビューではありません。infoQ(GMOリサーチ&AI株式会社)が実施した防災グッズ利用経験者651人へのアンケート調査、総務省・内閣府・内閣府男女共同参画局の公表資料、日本水道協会と内閣官房水循環政策本部事務局が公開している災害対応資料を直接確認し、そこに書かれている内容をもとに構成しています。
infoQの調査は政府による統計調査ではなく、民間のネット調査会社が実施したアンケートです。対象者数(651人)、実施時期(2026年1月29日)、対象者が被災や避難を経験しているかどうかが調査概要では明示されていない点は、本文中でもお伝えしたとおりです。この調査結果を「被災者全体の総意」として扱わないよう、判定にはできるだけ複数の資料を照らし合わせています。
本文中の「家庭で3日分以上備蓄しているものの割合」(飲料水69.8%など)は、内閣府「防災に関する世論調査」の「令和7年8月調査」によるものです。執筆の過程で令和4年9月調査のページも確認しましたが、こちらには飲料水単体の備蓄割合は掲載されておらず、該当の数値は令和7年8月調査で確認しました。調査年を取り違えないよう、本文でも「令和7年8月調査」と明記しています。同様に、断定できない箇所については「〜とされています」「〜という声がありました」といった表現にとどめ、一次資料で確認できた事実とは区別しています。
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